保釈について3(保釈が却下された場合)

前回は,保釈の流れで,保釈が許可された場合について書きました。
今回は,保釈が許可されなかった(却下された)場合についていくつか書きます。

前提として,保釈請求は1回限りのチャンスではなく,許可されるまで何回でも請求することができます。
ただし,ひとたび却下された場合,同じ内容の請求を何度繰り返しても,基本的に許可されることはないと考えて良いでしょう。

基本的には,起訴直後よりも1回目の裁判の日が終わった後,さらに証人等の尋問が終わった後,さらにさらに判決待ちの状態,と裁判が進んで行くにつれて,許可される可能性は高くなっていきます。
詳しくはまた書きますが,裁判所が保釈を許可するかどうかの判断要素の大きなものとして「罪証隠滅(証拠隠滅)の可能性」や「被害者等に圧力をかける可能性」というものがあり,手続が進むにつれてそれらの可能性が少なくなっていくためです。


一方,保釈が却下された場合,不服申立て(準抗告・抗告)をすることもできます。
何回でも請求できるのに不服申立てをする意味があるのか?と思うかもしれませんが,あります

保釈が却下される場合,裁判所はその理由を詳しく教えてくれません
却下決定という書面に書いてあるのは「刑事訴訟法89条〇号に該当する,また裁量保釈も相当ではない」ということだけです。
上で書いたように,裁判手続が進んでから再挑戦する場合はそうすれば良いですが,すぐに再挑戦したい場合,主張や書類を追加する必要があるので「なぜ却下されたのか」を知ることは非常に重要となるわけですが,全くと言って良いほど教えてくれないわけです。

そのような場合は不服申立を検討すべきということになります。
不服申立ては,却下の判断をした裁判官(原則ひとり)とは別の裁判官3人で,却下したことが相当なのかどうか判断するというものです。
正直,不服申立てで判断が変わることは少ないのですが,不服申立てに対する判断結果については,詳しく理由が書かれます
却下の判断を変えない場合でも,却下した理由がわかるわけです。
ですので,すぐに再挑戦したい場合は,追加の主張や資料を揃えるのに役立つことがあるため,不服申立てをしておくという選択をすることもひとつの方法となるわけです。


なお,少し話がそれますが,保釈が却下された場合に被告人側が不服申立てできる一方,保釈が許可された場合に検察官が不服申立てをすることがあります
被告人側の不服申立てで判断が変わることは少ない一方,検察官の不服申立てで判断が変わることはわりとよくあります。
何とも言えない気分になるところですが,許可が出たことだけで喜んでいると,ひっくり返されることもありえるわけです。
そこまで頭にいれておかないと,ぬか喜びに終わることがありますので,ご注意。

つづきます。
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保釈について2(保釈請求の流れ)

前回は,保釈請求ができる時期について説明しました。

今回は,保釈請求の流れについて説明します。
全体としての流れとしては,次のとおりです。

⑴ 保釈請求書を裁判所に提出
被告人自身やそのご家族が提出することもできますが,一般的には弁護人が書面で提出します(刑訴法88条1項)。
ご家族や雇用主等,身元引受人になる方の存在は必須ですし,その他保釈請求書の作成のために準備が必要となりますので,ご家族等の協力は必須と言っていいでしょう。

⑵ 保釈を許可するかどうかを裁判所が判断
兵庫県の阪神地域では,基本的に,保釈請求書が提出されたその日のうちか,翌日には許可するかどうかの判断をします。

⑶ 許可された場合
弁護人に保釈条件(特に保釈保証金の額)が伝えられますので,その金額を裁判所に納付に行きます。
許可された場合でも保釈保証金を納付しない限り釈放されませんので,許可された場合にすぐ納付できるよう,事前準備が大切です。

なお,「納付」と言いますが,「保証金」つまり担保ですので,保釈条件に違反しない限り,判決後に全額返還されます

⑷ 納付後
裁判所に保釈保証金を納付すると,約1~2時間で釈放されます。
拘束されている施設から普通に帰ってねということになるので,あらかじめ身元引受人の方に迎えにいっていただく手配をしておくのが一般的です。

⑸ 後日
「保釈許可決定」という書面が裁判所から届きますので,受け取りましょう。
その書面に,保釈条件(保釈されている期間中守らなければならないルール)が書かれています。
もっとも,通常は,それよりも早く弁護人から説明されることが多いと思います。

保釈条件に違反した場合,保釈が取り消されて再度身体拘束されますし,違反の程度が重大な場合,保釈金が没取(没収)されますので,注意が必要です。


簡単に説明するとこのような流れです。

では,許可されなかったらどうなるか。
次回に続きます。

保釈について(保釈請求できる時期)

今回は保釈について。

保釈というと,刑事事件を起こした場合に,「なんか保釈金を払えば釈放される」,みたいなイメージかと思います。
そこのところをある程度詳しく解説します。

大前提として,保釈は身体拘束を解いてもらうための制度なので,身体拘束されていない事件では関係ありません。

まず,時期のお話し。
身体拘束される刑事事件では大まかに,①逮捕,②勾留,③起訴,④裁判,⑤判決という流れをたどります。
保釈制度が使えるようになるのは,③起訴された日以降です。
また,保釈の効力は,⑤判決の日までです。

例えば,事件の流れが次のとおりだったとしましょう(事件が1件のみの場合)。

①7月1日  逮捕
身体拘束の開始。
このタイミングで希望すれば当番弁護士(弁護士による無料相談)を呼ぶことができます。

②7月3日  勾留
勾留されると身体拘束が続きます。
この日以降,希望すれば国選弁護人がつきます。

③7月12日 起訴
勾留中に起訴されると,身体拘束は判決まで続きます。
すでに国選弁護人がついている場合は引き続き担当になります。
なお,稀に,身体拘束されていない事件(在宅事件)でも起訴と同時に勾留されること(求令状起訴)もあります。

④8月12日 第1回公判
勾留されている場合は判決まで身体拘束が続きます。

⑤8月26日 判決宣告


この場合ですと,保釈請求が可能になるのは,起訴日である7月12日からとなります。
また,保釈の効果があるのは,8月26日の判決宣告の日までです。

制度上,逮捕・勾留時点では保釈請求はできません。

もっとも,そもそも勾留されないように活動することや,勾留された場合でも勾留に対して不服申立をすることなどはできます(それらは保釈制度とは別の話です)。
また,逮捕されたが勾留されなかった,勾留されたが起訴されなかったような場合だと,釈放されていますのでやはり保釈制度は関係ないこととなります。


なお,国選ではなく私選(自分のお金)で弁護人を選ぶことは,いつでもできます(逮捕前でも)。

つづく。

再度の執行猶予とは

続きです。
再度の執行猶予について解説します。
再度の執行猶予とは,要するに,執行猶予期間中に犯した罪について,さらに執行猶予をつけるというものです(刑法25条2項)。

条件が色々あります。
①執行猶予に保護観察が付いていない
②執行猶予期間中に言い渡された刑が1年以下の禁錮・懲役である
③情状に特に酌量すべきものがある
の全ての条件を満たす必要があります。

①②はシンプルに条件を満たしているかどうかですね。
ここでは③について解説します。


まず,結論的には「情状に特に酌量すべきものがある」と裁判所が認めてくれることはほぼありません。
特に同種の再犯の場合はまず認められません。
ここで「同種」とは,犯罪は「財産犯」「粗暴犯」「性犯罪」など,大きく分けた分類があり,そのくくりが同一のものです。
刑法上も見出しとして色々分類されていますが,それよりももっと大まかな分類です。
例えば財産犯ですと「窃盗,強盗」だけでなく「詐欺,恐喝,横領」なども財産犯です。
再犯が同一の犯罪やこのくくりで同種の場合,基本的に再度の執行猶予はつかないと考えて良いでしょう。

執行猶予とは,要するに裁判所がくれた最後のチャンスです。
これを最後に二度と犯罪をしないよう立ち直るんだよ,という温情なわけです。
執行猶予中の再犯とは,要するに裁判所的には,チャンスを無駄にして裏切ったということになるわけです。
ましてや同種の再犯をした場合,砕けた言い方をすると「裁判所なめとんのか」となります。
再度の執行猶予を求めるとは,要するに「最後のチャンスを無駄にしたけどもう一回チャンスをください」ということになります。
よほどの事情がない限り,そんな簡単に認めてくれるわけがないよね,ということが分かるかと思います。

同種と比べれば,このくくりで言うところの「異種」の再犯の場合は,まだ多少なりと可能性があります。
たとえば窃盗(財産犯)で執行猶予中に傷害(粗暴犯)で再犯とか。
もっとも,種別が違えどまた故意に(わざと)罪を犯しているので,それでもほとんど再度の執行猶予はつきません。
再犯に至った事情次第ということになります。

一方,執行猶予の原因が交通関係以外で再犯が交通事故のケースは,比較的再度の執行猶予がつきやすいです。
これは,窃盗であれば盗もうと思って盗んでいるなど,基本的に犯罪は故意に(わざと)起こすものであるのに対し,交通事故は,過失(ミス)で起きてしまうものであるからです。
ミスで交通事故を起こしてしまう可能性は車を運転する方なら誰でもありえます。
誠実に事故対応をしていれば,比較的再度の執行猶予がつきやすいと言えます。
ただ,それでもそもそも運転するなよなどと言われがちなので,運転が必要とな事情を説明できないと難しかったりしますが。


ちなみに,再度の執行猶予の場合,必ず保護観察が付きます(刑法25条の2第1項後段)。


なお,当職はそんな再度の執行猶予を獲得したことがありますので,どうかなと思われる方はまずご相談を。

執行猶予について

不貞行為の話が続きましたので,今回は刑事事件について。

「執行猶予」という制度があります。
ニュースや何やらで耳にしたことがあり,要するに刑務所に入らずに済むものという理解をされていると思います。
これを少し具体的に解説します。

「執行猶予」(刑法25条1項)とは,例えば「懲役1年に処する,この裁判が確定した日から3年間刑の執行を猶予する。」というものです。
砕けた言葉で説明しますと,意味としては
①原則として,1年間刑務所に入ってもらいます
②ただし,判決が確定した日から3年のあいだ,大きな問題を起こさなかったら,3年経った時点でなしにしてあげます
というものです。

②について解説します。

まず,執行猶予の起算点(スタート)は,判決の日ではなく,判決が確定した日です。
たとえば6月8日に判決が言い渡された場合,6月8日からスタートではありません。
判決は言い渡した時点では確定しておらず,判決の日を含めて15日間は不服申立(控訴等)ができます。
先の例で言いますと,6月22日までは確定しないわけです(早期に確定させる方法もありますが例外ですので省略します)。
その期間中,被告人も検察官も不服申立をしなかった場合,6月23日に確定しますので,スタートは6月23日から,となります。

次に,雑に「大きな問題」と書きましたが,具体的には,「執行猶予期間中に更に罪を犯して禁錮・懲役の刑に処せられた場合」,執行猶予が「必ず」取り消されます(刑法26条第1号)。
ここもわかりにくいですが,基準としては,禁錮・懲役の判決が確定した時点執行猶予期間中であった場合です。
先の例ですと,3年後の6月22日までに新たな罪の禁錮・懲役刑が確定していた場合に,執行猶予が取り消されます。
例えば3年後の6月20日に罪を犯した場合であれば,判決時点ではまず間違いなく6月23日以降ですので,執行猶予期間は満了しているということになります。

では,その違いはどう現れるのでしょうか。
新たな罪の刑罰が,懲役1年だったとします。
執行猶予が取り消される場合ですと,1回目の懲役1年と2回目の懲役1年が足し算され,合計2年間服役することになります。
一方,執行猶予期間が満了している場合ですと,2回目の懲役1年の1年間のみ服役することになるわけです。

なお,執行猶予期間中に罰金刑の判決を受けた場合も,執行猶予が取り消される「ことがあります」(刑法26条の2第1号)が,このパターンで実際に取り消されることはほぼありません(ほとんど0%です)。



では,執行猶予期間中に懲役刑になるような罪を犯した場合,どうにもならないのでしょうか。
「再度の執行猶予」という制度があります(刑法25条2項)。
ただし,これが適用されることはほとんどありません(当職は獲得したことがありますが)ので,あまり期待しないように,です。
詳しくは次回に。