写真のバリエーション(不貞行為)

さらに前回の続きです。

それでは,「二人で出入りする」写真がラブホテル以外の場所,例えば自宅だったらどうでしょうか。
これはケースバイケースですが,要は「その家の中に二人きりの状況」であるかどうか次第です。
例えば単身赴任先でひとり暮らししている家であれば,そうであると比較的簡単に言えるでしょう。
一方,家族と暮らしている家だと,そうであるというのは難しくなるでしょう(他の家族が全員不在であったことを言えないといけません)。

ただし,家の中で過ごした時間が短い,たとえば3分程度ですと,その間に事を済ますことは通常,容易とは言えませんので,一定時間,例えば1時間過ごした,ということまで言える必要があります。
ここが,「出入り」の写真が必要な理由です。
これが,例えば,入った写真のみの場合だと,「忘れ物を取りに帰るのについてきてもらっただけで,家の中に入ってすぐ出た」などと弁解される余地が出てきてしまい,そう弁解されると反論が困難になります。
何時何分に入った,何時何分に出たという両方の写真があってはじめて,その中でどの程度の時間を過ごしたのかが立証できるようになるわけです。


それでは,ビジネスホテルの場合だとどうでしょう。
この場合は,ホテルの出入りだけでは足りず,「同じ部屋への出入り」が必要となります。
例えば男女の同僚で出張先のビジネスホテルに泊まる場合,同じホテルの別の部屋に泊まるということがあるからです。
一方,ただの会社の同僚の男女が同じ部屋に宿泊することは通常ないと言えますし,打合せをするにしても余計な疑いを招かないよう外でするのか電話なりでするのが普通でしょう。
したがって,ビジネスホテルでも「同じ部屋で一晩過ごした」ような場合ですと,性行為の存在が強く推測されることになります。


では,某芸能人みたいに,車の中の場合はどうでしょう。
これは,基本的には,行為の真っ最中であるとか,そのものずばりの写真がないとなかなか難しいです。
車というのは,普通はそのような行為をする場所ではありませんし,男女の同僚や友人でも助手席に乗ることも別に珍しいことではないからですね。
例えひとけのない場所に一晩駐車しっぱなしだったとしても,例えば体調不良,例えば故障していた,全期間継続して撮影しないと途中移動して戻ってきたとか,色々弁解の余地が出てきてしまいがちです(この辺は駐車違反の取締りと弁解に似ています)。
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「不貞行為」が認定されるための証拠について

前回の続きです。

それでは,裁判の場面で,不貞行為の中でも典型の「性行為」を認定してもらうためにはどのような証拠が必要でしょうか。
これが結構ハードルの高いものであったりします。

最も確実な証拠は「ラブホテルに二人で入り,出てきた写真」です。
ラブホテルは性行為をするための場所というのが社会通念ですので,これがあると基本的に間違いありません。
しかし,問題は,どうやってそのような証拠を押さえるか,です。
通常,一般の方が尾行して行動を確認し,裁判で使えるように写真を撮影するというのは困難です。
そこで興信所,いわゆる探偵の出番となることがあります。
ただし,探偵は弁護士以上に費用も能力も様々ですので,どこに頼むかは慎重に。

最近よくあるのは,LINE等のSNSに残っている裸体や性行為の画像です。
これについては使える場合,あまり使えない場合が様々です。
例えば「相手の顔がはっきり映っていて,それが間違いなく不倫相手の顔だとわかる」ような場合であれば,そのような写真を配偶者が所持していることは不倫相手との性行為の存在を強く推測させる証拠になります。
一方,顔が不鮮明だったり,映っていなかったりすると,「その裸体」が「不倫相手」のものであるかどうかについて疑いが残ることになりますが,それを確認するのは非常に困難なため,証拠としての価値は大きく落ちます。

それに至らない,例えば「昨日は良かったよ」的なやりとりや性的接触のない二人で映った写真などは,それ単体で「性行為」を認定してもらうことは困難です。
他の事情や証拠との合わせ技でどこまで証明できるか次第になります。

なお,これらは相手が争っている(否定している)場合の話ですので,例えば夫も不倫相手も認めて一筆書いているような場合だと証明はほとんど必要なくなりますし,夫だけでも認めて協力させられる場合だと,裁判で夫を証人として活用できますので,ぐっと認めてもらいやすくなります。

「不貞行為」の定義

前回までは破綻について書きましたので,今回は「不貞行為」の定義について。

「性行為」を行った場合,「不貞行為」にあたることについては異論がないところです。
では,その前段階の場合,どこまでがセーフでどこからがアウトなのでしょうか。

ここでも「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益」が出てきます。
要するに,婚姻共同生活を侵害・破壊に導く可能性があると認められる行為であれば,性行為そのものでなくても「不貞行為」にあたるということになります。

基本的にはケースバイケースということになりますが,例えば性行類似行為であればほぼ性行為ですので,「不貞行為」に当たりやすいと言えます。
他の行為,例えばキスをする,手をつなぐ,デートをするなどといった行為は,それ単体で不貞行為と評価されることは稀でしょう。
ただし,例えば1年以上にわたって欠かさず毎週3回デートしていたなどといった事実がある場合,それだけ親密であるということが性行為の存在を推測させる事情になりえますし,また,性行為をしていないとしても婚姻共同生活の維持という権利または利益を侵害する行為と評価される可能性もあるということとなります。

もっとも,そういった行為で裁判所に不貞を認定してもらえるかはどうしても不安が残りやすいところですので,やはり確実なところとして性交渉の事実を押さえたいというのが基本です。


なお,性行為がホステスなどのいわゆる「枕営業」として行われていた場合,不貞行為に当たらないとする裁判例(東京地方裁判所平成26年4月14日)がありますが,これははっきり言って変な下級審の裁判例(最高裁判所の判例ではない)です。
おいおいそのあたりについては書きたいと思います。

「破綻」の認定を左右する事情について

前回,夫婦関係の「破綻」とは評価であり,プラスマイナス様々な事情を総合評価して「破綻」と評価できるかどうかが判断されるものというお話をしました。

またも前提の話になりますが,考慮される事情は基本的に「客観的」なもの,つまり他人がみて分かる事情です。
たとえば男(夫)が「妻と離婚したい」と言っていた事実は,例えば不貞行為の開始前に離婚調停を起こしていたり,具体的な離婚の話し合いを妻と続けておりそれを第三者も知っていたりなど,それが客観的な事情として現れていない限り,ほとんど評価の対象とはなりません。
裁判で「破綻」の判断をするのは裁判官ですが,裁判官は当然,超能力者ではないので,人の内心や真意などわかりません。
ですから,客観的事情から判断することになるのです。

それでは,どのような事情が影響してくると考えられるか,いくつか挙げてみましょう。

1 別居
別居していたかどうか,また別居期間は,客観的な事情として基本的に大きな事情として扱われます。
夫婦には同居義務がありますので,別々に暮らしているという事実は重視されますし,また期間が長ければ長いほど,別居を肯定する方向に働きます。
ただし,別居と言っても例えば単身赴任,例えば里帰り出産など様々な事情がありえますので,別居に至ったいきさつも重視されますし,別居イコール「破綻」と判定されるわけではありません。

なお,よく言われる「家庭内別居」はよほどの例外的なケースを除いて,「同居」です。
夫婦仲が良くないと言うことは言えても,「でも同じ家で暮らせる程度じゃん」となります。
「1年くらい家の中で会話していない」「家計が完全に別である」「そもそも部屋の区切り的に分離している」などの事情が複数積み重なった場合でないと,「別居」とは認められません。

2 セックスレス
重視されませんし,そもそも夫婦間の極めてプライベートな事情ですが,「破綻」の立証責任(証明する責任)は,主張する側(不倫相手)にありますので,客観的にそうであったことを証明すること自体が困難です。

むしろ,「夫婦間に性交渉があった」事実の方が,「破綻」を否定する事情として主張されることが多いです。
こちらは,主張する側が夫婦の一方になりますし,夫婦間では性交渉があるのが通常とされるため,証明のハードルがさほど高くないことになります。

3 夫婦ゲンカが絶えない
こちらもさほど重視されません。
要するに,「夫婦仲が良くない」という主張になるわけですが,さらに悪化した結果として別居や離婚の申し入れに至るわけですから,それらの事実に比べれば影響力は低いです。
また,録音でもない限り,水掛け論になりがちですが,夫婦ゲンカの録音など通常はしないわけで,証明のハードルも高いです。

4 離婚の申し入れをしていた
例えば離婚調停中であった場合などは,そこそこ考慮されます。
ただし,その事情のみで破綻と認められるわけではありません。
離婚調停は夫婦の一方が,一方的に申し立てることができますので,例えば夫が離婚したいと思って離婚調停を起こしていても,妻は離婚したくないと思っている場合もありますので,そこに至るまでの経緯が重要となります。


ここまで読んでお気づきかもしれませんが,「破綻」を裁判で認定してもらうのは中々困難です。
もっとも,破綻が認定されなくても,「夫婦仲が疎遠であった」程度の認定がされることはあります。
その場合,賠償金額が下がることがあります。
これは,夫婦仲が良好である場合と比べて「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益」の保護される程度が低くなるからです。



最後に,「破綻」で責任を免れられるのは,不倫開始より前の時点で破綻していた場合だけですよ。
開始後に破綻したなんて主張したら,「不倫が原因で夫婦関係が崩壊した」と言われますので。

「破綻」が認められるには(破綻は「評価」)

続きです。

では,婚姻関係の「破綻」とはどのような場合に認められるのでしょうか。

前提として「破綻」とは「評価」です。
「破綻していた」と言えば破綻になるわけではありません。

・破綻していたことを推測させる様々な事情(評価根拠事実)
・破綻していなかったことを推測させる様々な事情(評価障害事実)
を総合的に考慮した結果として「破綻」していたかどうかが認定されるというものです。


ちょっとわかりにくい概念でしょうが,「反省」に置き換えてみるとわかりやすいかもしれません。

あなたが,友人のAとBから悪口を広められていました。
色々調べた結果,そのことが間違いないという確かな証拠・証人を集めることができ,AとBを問い詰めました。
AとBは悪口を広めたことを認めましたが・・・

あなた「間違いないなら謝って下さい」
A「(椅子から立ち上がり,頭を45度下げて)申しわけありませんでした」
B「(椅子に座ってスマホをいじりながら)ごめんごめん」

あなた「なぜ悪口を広めたのか」
A「~~~(理由をきちんと説明する)」
B「別にいいじゃん」

あなた「どう償うつもりなのか」
A「(お詫びの菓子折を差し出し,さらに)私が広めた相手に,きちんと事情を説明して回ります」
B「(スマホをいじりながら)謝ったからもういいでしょ」

あなた「反省しているのか」
A・B「反省しています」

・・・さて,二人とも「反省している」と言っていますが,あなたはAとBと,どちらが「反省」していると思いましたか?
Aは反省しているなと思い,Bはあかんこれ反省してないわ,と思われたでしょう。
「反省している」という言葉自体には,言わないよりはマシ程度の,ほとんど意味がない言葉なのです。

なぜその違いが出たのでしょうか。
AとBの態度や言動を見て,「反省」しているかどうかを「評価」しているわけですね。
このように「評価」となる概念は,「様々な事情」を検討して,そのように「評価」できるかを判断しているわけです。


話を戻すと,「破綻」も,同じように,夫婦間の様々な事情を評価して,「破綻」していたと評価できるかどうかが判断されるという性質の概念となるわけです。


具体的には次回に続く。