再度の執行猶予とは

続きです。
再度の執行猶予について解説します。
再度の執行猶予とは,要するに,執行猶予期間中に犯した罪について,さらに執行猶予をつけるというものです(刑法25条2項)。

条件が色々あります。
①執行猶予に保護観察が付いていない
②執行猶予期間中に言い渡された刑が1年以下の禁錮・懲役である
③情状に特に酌量すべきものがある
の全ての条件を満たす必要があります。

①②はシンプルに条件を満たしているかどうかですね。
ここでは③について解説します。


まず,結論的には「情状に特に酌量すべきものがある」と裁判所が認めてくれることはほぼありません。
特に同種の再犯の場合はまず認められません。
ここで「同種」とは,犯罪は「財産犯」「粗暴犯」「性犯罪」など,大きく分けた分類があり,そのくくりが同一のものです。
刑法上も見出しとして色々分類されていますが,それよりももっと大まかな分類です。
例えば財産犯ですと「窃盗,強盗」だけでなく「詐欺,恐喝,横領」なども財産犯です。
再犯が同一の犯罪やこのくくりで同種の場合,基本的に再度の執行猶予はつかないと考えて良いでしょう。

執行猶予とは,要するに裁判所がくれた最後のチャンスです。
これを最後に二度と犯罪をしないよう立ち直るんだよ,という温情なわけです。
執行猶予中の再犯とは,要するに裁判所的には,チャンスを無駄にして裏切ったということになるわけです。
ましてや同種の再犯をした場合,砕けた言い方をすると「裁判所なめとんのか」となります。
再度の執行猶予を求めるとは,要するに「最後のチャンスを無駄にしたけどもう一回チャンスをください」ということになります。
よほどの事情がない限り,そんな簡単に認めてくれるわけがないよね,ということが分かるかと思います。

同種と比べれば,このくくりで言うところの「異種」の再犯の場合は,まだ多少なりと可能性があります。
たとえば窃盗(財産犯)で執行猶予中に傷害(粗暴犯)で再犯とか。
もっとも,種別が違えどまた故意に(わざと)罪を犯しているので,それでもほとんど再度の執行猶予はつきません。
再犯に至った事情次第ということになります。

一方,執行猶予の原因が交通関係以外で再犯が交通事故のケースは,比較的再度の執行猶予がつきやすいです。
これは,窃盗であれば盗もうと思って盗んでいるなど,基本的に犯罪は故意に(わざと)起こすものであるのに対し,交通事故は,過失(ミス)で起きてしまうものであるからです。
ミスで交通事故を起こしてしまう可能性は車を運転する方なら誰でもありえます。
誠実に事故対応をしていれば,比較的再度の執行猶予がつきやすいと言えます。
ただ,それでもそもそも運転するなよなどと言われがちなので,運転が必要とな事情を説明できないと難しかったりしますが。


ちなみに,再度の執行猶予の場合,必ず保護観察が付きます(刑法25条の2第1項後段)。


なお,当職はそんな再度の執行猶予を獲得したことがありますので,どうかなと思われる方はまずご相談を。
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執行猶予について

不貞行為の話が続きましたので,今回は刑事事件について。

「執行猶予」という制度があります。
ニュースや何やらで耳にしたことがあり,要するに刑務所に入らずに済むものという理解をされていると思います。
これを少し具体的に解説します。

「執行猶予」(刑法25条1項)とは,例えば「懲役1年に処する,この裁判が確定した日から3年間刑の執行を猶予する。」というものです。
砕けた言葉で説明しますと,意味としては
①原則として,1年間刑務所に入ってもらいます
②ただし,判決が確定した日から3年のあいだ,大きな問題を起こさなかったら,3年経った時点でなしにしてあげます
というものです。

②について解説します。

まず,執行猶予の起算点(スタート)は,判決の日ではなく,判決が確定した日です。
たとえば6月8日に判決が言い渡された場合,6月8日からスタートではありません。
判決は言い渡した時点では確定しておらず,判決の日を含めて15日間は不服申立(控訴等)ができます。
先の例で言いますと,6月22日までは確定しないわけです(早期に確定させる方法もありますが例外ですので省略します)。
その期間中,被告人も検察官も不服申立をしなかった場合,6月23日に確定しますので,スタートは6月23日から,となります。

次に,雑に「大きな問題」と書きましたが,具体的には,「執行猶予期間中に更に罪を犯して禁錮・懲役の刑に処せられた場合」,執行猶予が「必ず」取り消されます(刑法26条第1号)。
ここもわかりにくいですが,基準としては,禁錮・懲役の判決が確定した時点執行猶予期間中であった場合です。
先の例ですと,3年後の6月22日までに新たな罪の禁錮・懲役刑が確定していた場合に,執行猶予が取り消されます。
例えば3年後の6月20日に罪を犯した場合であれば,判決時点ではまず間違いなく6月23日以降ですので,執行猶予期間は満了しているということになります。

では,その違いはどう現れるのでしょうか。
新たな罪の刑罰が,懲役1年だったとします。
執行猶予が取り消される場合ですと,1回目の懲役1年と2回目の懲役1年が足し算され,合計2年間服役することになります。
一方,執行猶予期間が満了している場合ですと,2回目の懲役1年の1年間のみ服役することになるわけです。

なお,執行猶予期間中に罰金刑の判決を受けた場合も,執行猶予が取り消される「ことがあります」(刑法26条の2第1号)が,このパターンで実際に取り消されることはほぼありません(ほとんど0%です)。



では,執行猶予期間中に懲役刑になるような罪を犯した場合,どうにもならないのでしょうか。
「再度の執行猶予」という制度があります(刑法25条2項)。
ただし,これが適用されることはほとんどありません(当職は獲得したことがありますが)ので,あまり期待しないように,です。
詳しくは次回に。